長期メンテナンス契約の価格設定 (MRO)
企業が火力発電所、産業用重機、または航空機や車両の艦隊を委託する場合、その投資が今後数年、いや時には数十年にわたって収益を生むことが期待される。投資回収を確実にするためには、これらの設備の長期にわたる保守およびサービスが非常に重要であり、通常、プロジェクトの費用の大部分を占める。これらのリスクをカバーするため、OEM、MRO、またはその他のベンダーによって提供される長期メンテナンス/サービス契約が一般的となっている。
これらの契約は様々な形態を取ることができる。しかし、基本的な考え方はほぼ常に同じである。すなわち、保守の財務リスクが契約開始時に定められた価格で、一定の期間(数年または数十年)にわたって完全または部分的にベンダーに移転されるのだ。問題は、双方のうちどちらがこのリスクをより適切に評価し、交渉で優位に立てるかということであり、またベンダーにとっては、契約期間中の利益率を最大化するためにプロセスを如何に最適化するかということである。
販売前にリスクを評価し、それを受け入れる
長期メンテナンス契約が財務上極めて重要であること、そしてしばしばベンダーが設備自体を大幅な値引きで販売し、保守契約により利益を得ようとする状況を考えると、サービスの価格設定および条件は通常、双方の交渉の中心となる。
企業は、交換される部品のコスト、各種介入に必要な専任の人件費、サービス中断などに伴う費用を見積もるために、様々なツールやプロセスを用いる。しかし、この見積もりがいかに複雑であっても、問題のごく一部しか捉えていない。真の課題は、これらの費用を発生させる事象が、いつ、どの程度の頻度で発生するかである。もしベンダーがリスクを過小評価すれば、契約期間中に損失を被る可能性がある。一方、リスクを過大評価し、サービスの価格設定を過剰に高くしてしまえば、契約そのものを失うかもしれない。
長期契約の現実は、最終コストが非常に不確実であり、合理的に広い範囲で変動し得るという点にある。「正確」または「真実に近い」値を算出しようとする試みは、予測プロセスに対する根本的な誤解を示している。そもそも「唯一正確な値」というものは存在せず、どの予測値も一定のリスクを伴う。そのため、予測プロセスの中心には、ドルで表現されるこの(財務上の)リスク評価が据えられるべきである。
保守契約が締結されると、ベンダーはそのリスクと共に生きていかねばならない。しかし、これは予測の取り組みがそこで終了することを意味するものではない。むしろ、契約の有効性を維持するためには、リスクに関する定期的なアップデートが必要になる。これには以下が含まれる:
- 短期予測:適切な応答時間とサービスレベルを確保するため、予備部品在庫や人員などのリソースを最適化する。これらの予測は、プロセスのリードタイムに焦点を当て、効率的な運用を目指すものとなる。
- 長期予測:契約残期間にわたって企業が負担するリスクの評価を精緻化し、必要に応じて損失引当金を算出するためのもの。長期メンテナンス契約では、費用の大部分が契約終了間際に発生する一方、収益は契約期間中に定期的に認識される点が危険要因となる。
保守予測に対する従来手法の限界
リスクとそれに付随する費用の評価は困難な作業であり、残念ながら、多くの企業が採用する従来の手法では十分に対応できない。メーカーが提供する仕様(例:MTBURタイプのデータ)に依拠する最も単純な方法では、部品の信頼性が使用状況や環境などの外部要因によって大きく左右されるため、現実を正確に反映できない。私たちの経験では、実際の信頼性パターンは、理論上の数値とはほぼ一致しない、とりわけ長期においては。
より高度な従来手法、すなわち伝統的な統計的「従来予測」に基づく方法も、予備部品で見られる現実のパターンを捉え損ねる。これらの方法は、保守予測が他の「需要」予測と同様であり、同じアプローチで対処可能であるという前提に基づいているが、これは決して正しくない。いくつかの特有性が、保守予測を困難にしている。
- 希少な事象:機械的故障は定義上希少な事象であるため、特定の部品に注目すると、「滑らか」なパターンを示すモデル(小売のトップセラーのようなもの)に依存するのは、やや単純すぎる。
- 一斉交換:保守の現実では、供給チェーンの混乱が故障部品自体のコスト以上に高額になることが多く、不要なダウンタイムを避けるため、一斉に部品を交換する傾向がある。このため、各部品が「独立した」保守パターンを持つという前提およびそれに依存する一般的な予測モデルは無効となる。
- 非常に高いサービスレベルの期待:サービス中断のコストを考慮すると、保守契約において求められるサービスレベルは極めて高く、他業界で一般的に目標とされる範囲を大きく上回る。例えば、航空機の地上待機(AOGインシデント)のコストは、1日あたり数十万ドルに達することもある。
- クローズドループ修理サイクル:多くの部品は廃棄するにはあまりにも高価であり、検査・修理のために送られた後、在庫として再輸入され、将来再利用される。これにより、企業は従来の「販売して再調達する」シナリオから外れる。一度購入された部品は、長期間在庫として保持されるため、在庫拡大の決定はなおさら重大な意味を持つ。
しかし、最大の障害は「従来予測」という概念そのものにある。従来の意味での予測は、いかに正確であっても未来の推測ではなく、需要やコストの中央値の統計的推定値に過ぎない。つまり、保守契約の全体コストを従来予測で算出すれば、その値は本質的に50%の確率で実際のコストを上回るか下回るかのどちらかとなる。当然、財務的観点からはこの確率は容認できず、従来予測の概念は無意味となる。結局、適切な予測を生み出す鍵は、最初から予測プロセスに財務的視点を取り入れることである。
目的は、達成すべきターゲットとなる財務カバー(財務リスク、サービスレベル)と、それに連動する財務ドライビングフォースを直接予測に組み込んだ「予測シナリオ」に依拠することである。そしてそれがquantile forecastである。
予測における財務的視点:分位数
メンテナンスの予測は、全契約期間における財務リスクと、必要なサービスレベルを維持しながら保守プロセスを如何に効率化できるかという点の両面から、財務最適化である。
これらのシナリオは、分位数予測によって生成される。分位数予測は実際、従来予測の拡張であり、未来の需要やコストを50%の確率で覆う値ではなく、10%、60%、80%、または98%など、任意の閾値をコスト/リスクの分布内で定めることを可能にする。
全体コストと残存リスクの見積もり
目的は、企業が受け入れ可能な各リスクレベルに対応する予測を生成することである。この分析は、交渉不可能な下限を提供する最低限のカバーから、高価格ながらも有利なシナリオを提供するより高いカバーに至るまで、複数のシミュレーションシナリオの形をとるべきである。
実際、保守契約の価格設定は、クライアントの「支払意思額」と競争状況によって大きく左右される。そのため、ベンダーは通常、価格調整を余儀なくされるが、上述のシナリオを生成することで、特定の価格レベルにおいて直面するリスクを定量化することが可能となる。
これらのシナリオは、契約期間中に更新され、契約残期間のリスク評価、及び必要な場合の引当金の設定や調整を行う際に、特に有用である。このアプローチは、リスクの定量化を可能にし、直接的な財務見積もりと採るべき慎重度の完全なコントロールを実現する大きな利点を提供する。
契約における保守プロセスの最適化
リソースや在庫の最適化に関しては、目標とするサービスレベルを設定し、そのサービスレベルを確保するために必要な最小のリソースや在庫を算出するのが理想である。保守契約の特性を踏まえるとこれは難しいが、前述のように分位数予測を活用することで、目標サービスレベルを直接ターゲットとし、その必要量を評価できる。
しかし、実際の保守はより複雑であり、企業は通常、限られた予算内で運営する中で、各部品について投入資金当たりのサービスレベルのROIを最大化するためのトレードオフを行う必要がある。この最適化は、分位数グリッドを生成することで可能となる。分位数グリッドは、各部品タイプごとに、受け入れ可能なサービスレベルの範囲内で必要とされる部品数を示したものであり、企業が予算制約下で維持すべき最も効率的な在庫を判断するのに役立つ。